バリアント情報標準化研究会(VISC: Variant Information Standardization Collegium) は、
ヒトゲノムのバリアント情報をより正確に、そして相互運用可能な形で表現・共有するための標準化を目指して活動している研究会です。

近年、長リードシーケンシング、ハイブリッドアセンブリ、Hi-C など、さまざまなゲノム解析技術が急速に発展し、構造変異の検出やジェノタイピングなどの解析精度が大きく向上しています。これにより、これまで困難だったレベルで構造多型を大規模かつ高精度に捉えることが可能となりました。一方で、複雑な構造多型をどのように標準的に記述するかという問題はまだ十分に解決されていません。この課題は、バリアント情報を長期的に蓄積・再利用し、既存の知識や他のデータベースと統合して活用していくうえで、今後ますます重要になると考えられます。

VISCは、こうした背景を踏まえ、個人ごとのゲノムの違いを一貫した形式で表現し、研究や医療での応用に資するための標準を提案・検討することを目的としています。単なる理論的な枠組みの提案にとどまらず、既存のデータベースや解析ツールに実装・応用することで、現場で使える知識基盤の整備を進めています。

研究会の扱うテーマは多岐にわたり、ゲノム構造変異、グラフゲノム、パンゲノム、集団遺伝学、アルゴリズム、オントロジー設計など、ゲノム情報科学の幅広い領域を横断しています。各分野の研究者・開発者が定期的に集まり、議論や情報共有、共同開発を通じて、データ表現の標準化や相互運用性の実現を目指しています。

これまでに、20回を超える研究会を開催しており、議事録や発表資料は GitHub Wiki に公開しています。会合では、Genome Variation Ontology(GVO) の開発・改良や、グラフゲノム関連技術の応用、および DBCLSの TogoVar九州大学の JoGo などのデータベースとの連携が主要なトピックとして議論されてきました。これらの取り組みを通じて、VISCは日本国内外におけるゲノムバリアント情報の標準化に大きく貢献しています。

本研究会は、生命科学統合データベースセンター(DBCLS)をはじめとする国内の研究機関が中心となり、オープンで協調的な形で運営されています。専門分野を超えた研究者やエンジニアの参加を歓迎しており、自由な議論と共同開発を通じて、ゲノム情報科学の新しい基盤づくりを進めています。

VISCは、今後も国際的な標準化活動や、臨床ゲノム情報の活用など実社会との接点を視野に入れながら、ゲノム情報の表現と共有のあり方を探求し続けます。そして、科学的知識をより公平に活用できる未来のために、バリアント情報のオープンで再利用可能な基盤を構築していくことを目指しています。